東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

長い息

 今回は息にこだわってみたい。

 呼吸の目的はまず、酸素を吸収することである。というのも、あらゆる癌の病気は、酸素の欠乏からくる。心臓の悪いのも、血圧の高いのも、神経痛一般の筋肉の痛みも素因は酸素の欠乏であると医療では云う。
 医学は学問であり、精密を要するので分科的研究を必要とするが、医療は学問ではないので、現実に苦しんでいる患者を救うのだとヨーガで教わった。
 そして、自然は酸素のほかに窒素など幾十の元素を配合して人間に最もよい「空気」がつくられている。肺は気管からだんだん枝分かれて、ついに七億を超える肺胞に至る。そこまで空気が達しなければ、汚れた静脈血を清めていくことはできない。極めて細い七億の肺胞にまで、空気を十分に到達させるには当然にかなりの時間がかかることになる。
 細胞生理学によると一つ一つの細胞は皆、独立の人格をもち、感情を具えているという。これら全肺胞本来の願いは、一呼吸ごとに、全同胞が平等に空気を配給されることである。これには長い呼吸が必要であり、速くても浅くてもいけないのである。七億に万遍なく新鮮な空気を配るためには、是が非でも深い長息が必要となる。長息が長生きに通ずるのは、単純な生理学からだけではない。七億の肺胞たちが、こぞって掌を合せ、「この人のためなら、一致協力して尽くそう」という歓びがあがるからである。
 呼吸の形は心の形である。長い静かな呼吸をすれば心が穏やかになる。心を心で支配するのは難しいが、呼吸と心の法則に従って良い呼吸をすれば、いとも容易に心を支配できるものであると、習った記憶がある。

 眼に見えるノイロンのような原形質のからだと、眼に見えない電気性の波動をもつインパルスの心とをつなぎ、または仲介の役目をしているのが神経である。その神経系に強い影響力をもっているのが呼吸であることは疑いようのない事実だ。 からだと心の相互交渉の原理から云うと、からだの病気と心の病気のどちらか一方だけを治そうとする療法はものの道理に合わないことになる。肉体だけを考えてからだを治そうとすると、心の悪条件によって妨害されることになる。心の改造だけでからだの病気を治そうとすると、通常の人間の意識の働きには、神経を通じて肉体に届くほどの力はない。少なくとも通常人の場合は、心とからだの両面から改めてゆかないと、こころの病も、からだの病も、容易に治すことはできない。ここに、心とからだの両方に働きかけることのできる呼吸の重要性がある。