東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

ひだりの道 ①

 テーマは 「左右」 の、「ひだり」 !

  ボディの内、「ひだり側」 にまず注目されるのは、心臓の拍動である。 実は、その拍動が左胸から聞こえるようになったのは、出生後のことであり、胎児のときには、拍動の強さに左右の差はなく、心音は真ん中から聞こえているという。 

 

 そのような心臓は、ほぼ胸の正中線上に位置し、その中は四つの小部屋に分かれていて、右側が 「右心房」 と 「右心室」、左側が 「左心房」 と 「左心室」 になっている。 心臓へと流れ込んできた血液は左右の心房へと入り、心室を経由して心臓から動脈血として外へ押し出される。 そして、血流の左側ルート(大動脈)と右側ルート(肺動脈)は完全に仕切られており、左右の血液が交わることはない。

 

  右心室から出ていく経路は、血液を肺へ送るので 「肺循環」 、左心室から出ていくのは、血液を全身に送り出すので 「体循環」 とそれぞれ呼ばれている。 その労働力を比較すれば、全身へ向かって押し出す方が実に重労働である。 特に腎臓を通過するときは、1回目に尿をこし取り、2回目は余分にこされた尿を回収するので、腎臓の中の毛細血管を2回も通らなくてはいけないことになる。

 

  このような腎臓の中の細い毛細血管を2度も通すには、より高い血圧をかける必要がある。 それゆえ我々人間の体循環血圧は、120~140mmHgが必要で、肺循環血圧25~30mmHgに比べて4~5倍も高くなっているのである。 腎臓というのは心臓の働きにとって、紛れもなく最大の難所となっている。 

 

  心臓はそんなことから高い血圧をかけるために頑張り続けており、特に左心室の壁の筋肉は右心室より鍛えられて分厚くなっている。 そのため心臓のひだり側からの拍動が強く伝わってくるのである。 そのような血圧ポンプによる筋トレの結果として、左心室の左側の壁は、筋肉が鍛えられて厚くなるのである。

 

 しかし、胎児の体循環は、成人とはまったく違っている。 右心房と左心房の間に心内短絡(卵円孔)と、二つの心外短絡(肺動脈と大動脈)と呼ばれるバイパス経路でつながっているので、その血圧差はなく、心室の筋肉の厚さも左右同等である。 そして、出生後の啼泣に伴い自発呼吸が始まると、吸い込んだ息が肺を拡げることになる。 この刺激によって卵円孔と動脈管は閉鎖してしまい、成人と同じ体循環と肺循環がこの時点から始まり、体循環の血圧が高くなる。 

 

  我々人類のように心臓が左右はっきり分かれているのは、哺乳類の他に気のうを持つ鳥類も分かれている。 その心臓が左右に分かれているおかげで、全身に血液を送りだす体循環の血圧を高めることができたのだ。  これで酸素や栄養の循環を良くし、運動能力を高めることにも成功したのである。 心臓の中が左右に完全に分かれていないカエルのような動物は、犬猫のような動きができない。 哺乳類や鳥類が左胸から拍動が感じられるのは、高性能の心臓が頑張っている証拠だとも言える。

 

 そして人間の生命力において、からだにおける 「ひだり」 の原点になるのがこの心臓の左側から伝わる拍動なのである。 生命力の源である心臓の拍動が強く伝わってくるのが 「ひだり」 というのは、運動力学における 「重心軸の移動」 や 「体重が乗る力」 や 「支点にかかる力」 にも関係しており、「からだの使い方や動かし方」 にも大きく影響を及ぼしている。 

 

  現代社会は医学の分野でも、テクノロジーが飛躍的に進歩しており、MRIやCTや遺伝子工学によって診断、治療技術は格段に進み、不治の病と言われた病気も治療できるようになってきた。 しかしそのようなテクノロジーであっても、治療できない分野が今なお存在している。 その代表的なものが、精神疾患や自律神経が関与するような病気であるが、未だテクノロジーの恩恵を十分に受けていないように思えてならない。

 

  そのような自律神経が深く関わっている症状・疾患において、例えば、心臓の拍動を速める交感神経やそれとは逆に拍動を少なくする副交感神経がそれに関与している。 こういった自律神経にはからだの左右バランスが深く関係しており、これらのつながりを考えながら 「ひだり理論」 へと展開していきたい。 

 

 

 「操体マンダラ」は2021年7月22日(木)海の日に開催します。