東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

操体(動診)はたくさんありますが、どれをやったらいいのかいつも困ります

今週、高校大学と7年間クラスが一緒だった友人がスコットランドから帰国する。イギリスの方(スコットランド?)と結婚して子供が二人いるのだが、三年前からあちらで指圧の勉強をしているのだ。勿論私が操体をやっていることは知っているので、いわば同じ業界のヒトである。スコットランドの彼女の指圧の先生も、操体のことを少しだけ知っているそうだが、第一分析、つまり『対なる二つの動きを比較対照して、楽な方、痛くない方に動かして、可動域極限で瞬間急速脱力』に導くものらしい。彼女も操体に興味があるそうなので、再会が楽しみだ。おそらく今日辺り東京に着いているのでは。

そういえば、偶然にも、先週イギリスの鍼灸師からメールをいただいた。七月末に鍼灸の学会に出るため来日するので、その機会に実際に操体を受けてみたいとのことだった。聞いてみたところ、通称「Blue Book」(操体法写真解説集の訳)を読んだことがあるらしい(この本の英訳はわかりにくいとメールに書いてあった)、『(本に)操体は沢山のっていますが、どれをやったらいいのかいつも困ります』と書かれていた(日本語が少しできるそうです)

そうなのだ。「どれをやったらいいのかわからない」というのは問題なのである。今年の操体法東京研究会の定例講習でもこのような質問が出たのだが、操体を勉強すると一番困るのは(悩むのは)

『どの(動診)を選択すればいいのか』ということなのだ。


例えば、手関節、足関節をみても動きはそれぞれ8つある。手関節を例に挙げると、まず右で8つ、左で8つ、両手を同時にという動診もあるので、8+8+8で24通りある。足関節だと、やはり右8、左8、両足同時が8つで24通り、首も8とおり、体幹も8とおりで思い切り単純に考えても64通り、更にポジションを考えると、仰臥下肢伸展位、仰臥膝二分の一屈曲位、伏臥下肢伸展位、伏臥膝二分の一屈曲位、右側臥、左側臥、椅座位、正座位、正座つま先立位、四つん這い、などなど、ポジションの数だけあることになる。これに皮膚へのアプローチを加えると、ものすごい数の動診が考えられる。

私も正直言ってカウントするのは恐ろしい・・・

これだけあるのだから(また、操体の書籍を見ても多くの動診・操法が載っている)確かに『どの動診を選択すればいいのかわからない』という悩みはよくわかる。

注)如何なるポジションでも分析(動診)が可能なのは第二分析、すなわち一つ一つの動きに快適感覚をききわけさせる動診である。対なる二つの動きを比較対照する第一分析だと、側臥位の分析(動診)を行えないのは明白である。また、第一分析時代は側臥位の分析は行われていなかった。

10年前、第一分析を講習で指導していた時、プログラムには一応順番があった。何故あったかというと、私もその順番で習ったからという非常に単純な理由である。勿論順番(プログラム)があるのは教える以上当然で、その順番をアレンジして応用するのは『本人の技量』だと思っていたところ、『実際の臨床は、講習で習った順番』だと理解していた受講生がいた。確かにパターン化して、最初に足関節の背屈をやって、次に膝の左右傾倒をやって、次に伏臥位で膝を脇のほうに引きつけさせて・・・と、教えるほうが教える方も覚える方もラクでいいかもしれない。しかし、臨床には必ず例外が存在する。その例外に対応するためにも、基本に基づいた操者の想像力と応用力が必要になってくるのである。

★これを【何をやってもいい】と解釈するか、【操体のセオリーに基づいて、なおかつ想像力と応用力を活用して】と捉えるかは【テメエの勝手】だが、私自身、橋本敬三先生という大師匠が苦労して大筋を耕し種を蒔き、その弟子が更にその芽を育てた。私達はその芽が育っている状態で操体に巡り会っているだから、【何をやってもいい】ではなく【操体という土俵の中でヤジウマをしよう】と思っている。

『どの動診を選択すればいいのか分からない』
いいポイントをついている。多くの受講生がこれで悩む(いや、私も悩んでいた)のは普遍的な事実なのだ。
介助や補助、言葉かけはポイントを絞り込んで勉強すれば何とか身につく。しかしそれだけではダメで『どの動診を選択するか』という修行を積まなければ片手落ちだ。

『どの動診を選ぶか』
「症状疾患にとらわれない」というセオリーがあるので、操体には『肩こりに効く操法』とか『腰痛に効く操法』というのは本来存在しない。『肩こりに効く動診』があれば、クライアントの訴えに応じて、該当する動診・操法を行えばいいのだがそうは行かないのが操体なのである(笑)

そして、その答えを学ぶために私達は時間をかけて精進し、学び続けているのだ。10000時間ではないがセオリーを踏まえて段階的に勉強すれば答えは得られる。これは私が保証する。しかし、『どの動診(分析法)を選ぶか、その方法をすぐに知りたい』というリクエストには簡単にはお応えできない。というか、そんな方法があったら私が知りたい(笑)

その答えを得るために、私達は時間をかけて精進し、学んでいる。東京操体フォーラムの実行委員は、その答えを得てからも、操体の精進のために日々勉強しているのである。