東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

慢性痛

 五日目です。よろしくお願いします。
 最近は脳の血流を観察する画像装置であるfMRI (functional magnetic resonance imaging)の発達により、脳について沢山の研究が進んでいるようです。
 脳内からみた痛みについてもいろいろなことが分かってきているようですので、簡単に紹介したいと思います。
 Melzack氏は従来のゲートコントロール理論を越えるものとして、「脳は身体がなくとも身体を感じ、知覚経験を作り出すことができる」「外傷があっても痛みを感じないことがある」といったニューロマトリックス理論を発表した。身体の痛みも脳内で作り出すことができるという理論が報告されていました。
 ネガティブな言葉と痛みの治癒遅延化の関係についても報告がありますので紹介します。九州大学病院 心療内科 細井医師の報告では、ネガティブな感情や言葉は、ケガなどの外的な刺激を受けると、ネガティブな感情・言葉を伴わない場合と比べ、痛みを強く感じたり、治癒も遅延化する傾向にあるとのことです。これを裏付けするように、輝山会記念病院の本田医師の報告では、慢性疼痛患者の脳のfMRIをみると、体性感覚野の血流が高く、前頭前野の血流が低いことを報告しています。脳の体性感覚野は、皮膚感覚や関節・筋肉の感覚を認識するところで、前頭前野は思考・感情のコントロール、集中や意欲をだすことなどに関わっています。脳の面から慢性疼痛患者の治療を考えると、前頭前野の血流をアップさせれば、興奮している体性感覚野の血流がさがり、痛みが軽減する可能性について述べています。前頭前野の活性化に良いのが、簡単な計算などの脳トレや前向きな言葉を思うのでなく口から発することを繰り返していくことで、前頭前野の血流がアップし活性化されるとのことで、実際に慢性の痛みの治療のプログラムのひとつとして組み込まれているようです。
 橋本先生が「言葉は運命のハンドルである」と言われた通り、言葉は「息・食・動・想」の「想(精神活動)」に繋がっており、自分で口に出したネガティブな言葉が具現化し、痛みの呪縛に悩まされる可能性を脳内の血流変化からも言えるのではないでしょうか。
 痛みの治癒が遅延化している慢性痛を抱えた方を多く診させていただくことがありますが、痛みを訴える部位にばかり患者さん自身も含め囚われているのではないでしょうか。脳内に起こっている現象や、痛みのある部位以外の影響などさまざまな変化の上に結果として出現している一部分の痛みにばかりに気を囚われているために、痛みの治癒が遅延化してしまうのではないでしょうか。本当の原因部位を診つけられる臨床家を目指し日々精進していきたいと思います。
 ありがとうございました。