東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

心とからだの研究(二日目)

昨日の続き
操体の動診で行うからだの動きというのは、ある部分の筋肉を収縮させると同時に、その筋肉と反対の拮抗する筋肉を弛緩させることを意識的にもくろむ事である。このとき、部分的な動きに止まらず、全身の動きへと連動させなければならない。すなわちからだ全体で動作を表現することが必要なのである。何故なら感覚は部分的なものではあり得ないからだ。からだの感覚とは全体性、全一性のことを言う。
この全身への連動に導くのに必要なプロセスが視覚イメージであり、そのイメージするのに必要な時間を伴うことから、ゆっくりと動きを通すことが求められる。何事も素早く行うのは簡単かもしれない。が、それをあえて丁寧にゆっくりと、しかも心乱れることなく意識的に動きを通すには、多少の努力が必要である。上手下手というものではなくて、少しの努力と丁寧に行うことが、乱れる心を落ち着かせ、呼吸を調えて気を鎮めてゆく効果が得られるのである。
このようにゆっくりしたからだの動きによって収縮している筋肉に神経エネルギーが流れ込んでゆくのが感じられるようになってくる。やがてこのような感じが随意筋から神経的につながりのある不随意筋にまで拡がってゆくようになる。すると、内臓器官までが知覚対象に入ってきて、実際に内臓周辺部分が温かく感じられるようにもなってくる。
こうしたゆっくりと動きを通すにもプロセスがある。もっともポピュラーなのが動きに際して「目線」をつけるということであるが、何も目線だけに限ったことではない。目線と同じ他の五感を使っても同様の効果は得られる。嗅覚から動きを通してもいいし、聴覚からでもいい。要は感覚器官を使うことでからだの動きを意識的に導くことができる。
また動き方に関してもプロセスがあり、外面的には末端から動きを通すということになっているが、内面的に見ると、下腹部丹田から動きは始まる。からだを動かすときには、下丹田を中心に動かすことになる。四肢末端の足先、手先からいきなり動き始めると、どうしても局所的な動きで速くなってしまう。局所的な動きは、全身に連動したからだ全体で末端の動きを通すのに比較すると、力んでいる割には力強さがない。からだに動作を起こそうとしたとき、力のない手先、足先から動いても疲れるだけということになる。まず下丹田を動かすことによって末端の動きは自然と遅くなって、底力が入り、これが全身への連動につなげる起爆剤となる。
丹田から動きを通すというのを具体的に捉えてみると、からだの末端部を動かそうと意志が働いた時点で、からだの中心部である下丹田には微細な動きが起こっている。四肢末端を動かそうと心の中でイメージすることそのものが、ミクロな身体運動なのである。はじめに動作を起こそうという意志が働くと、その目的である完成された動き、例えば「右手関節の背屈」というイメージを思い浮かべることになる。すると下丹田から脊椎に動きが起こり、右肩から微細な波動となって上腕から肘へ、さらに前腕から手関節に伝わり、背屈という動作がスタートする。このようにすべてのからだの動きは中心軸が定まっていなければならない。
この中心軸というのは、からだの中心である下丹田と神経組織の中心である自律神経のことを指しており、両者が融通自在に交流し合っているところに生命は成り立っている。ということは、心の中心軸が外れると、その結果は必ずからだに現れてくるし、からだの中心軸が外れても、きっと心に影響が及ぶことになる。我々の生命はもとよりあらゆる存在はすべて中心を持ちながら融通無礙な働きをしているのである。それはからだにとって、中心とそれを軸にして働く円のような働きを持っている。そんな生命中枢の狂いは全身に狂いを生じさせ、あらゆる病の根源となる。逆に自然な生命法則に従った動作は全身の細胞が生き生きと蘇り、大宇宙のエネルギーが発現されていくことになる。
中心軸と円の関係をからだについて考えてみると、「心」と「からだ」、それにそれらをつないでいる「神経」が存在している。「からだ」は背骨という中心軸から骨格という円があり、「心」は魂という中心軸とそこから生まれていく感情や知性などの心の働きという円と、それらをつなぐ「神経」は中枢機能として無意識に生命活動を司る運動神経という円から形づくられている。このように中心軸と円のダイナミズムを見てとることができる。しかしながら中心軸は内なる見えない世界であり、意識が行きにくいことから忘れ去られる傾向が強い。この忘れ去られた中心軸に回帰して意識的に動きと感覚を得ようとするのが操体の動診なのである。
明日に続く



三浦寛 操体人生46年の集大成 "Live ONLY-ONE 46th Anniversary"は2012年7月16日(海の日)に開催致します。