東京操体フォーラム 実行委員ブログ

 操体のプロ、東京操体フォーラム実行委員によるリレーブログ

快適感覚(最終日)

昨日の続き
意識的静止状態での自力快適感覚を得るには日本式座位がそれを充足させてくれることになると、昨日も述べた。日本式座位では座位が高く、かつ脚を下に折り重ねるために下腹の前方が空いているから、腰をぐっと前に押し出すのに便りがよいものだ。日本式座位の組み方であるが、慣れないうちは、まず正座になり、そこから両手で両踵を左右から圧するようにして、踵を寄せて閉じ、その踵の上に臀部をのせる。そして腰を引きつけ背骨を立て、顎を引き寄せ、直立のイメージをもって座る、いわば踵を合わせた正座である。
一般的な正座は、踵を開いたままその間に臀部を乗せるので、足裏部に臀部が落ちてしまい、上体が揺れやすく、膝が開いて背中が丸くなりがちになり、不安定な座りとなる。このような一般的な正座を正と信じてきた者は、認識を改めなければならない。それに比べて日本式座位であれば、踵を閉じることによって踵で臀部を押し上げる形になり、座高が高くなって腰が入りやすく、背筋が伸びやすく、より安定する。ただし、腰砕けの座り方では膝先が浮くので日本式座位といえども、やはり脚を胴身から遊離させて、脚の存在を偶然化することが必要である。腰砕けの座り方では、全身の重心が踵の上に落ちて、体躯の重力が狭い踵部分のみに掛かってしまうから、脚の血行は阻害されて、足がしびれるのである。
日本式座位は、臀部から膝先までの面積において床に接するのは、上半身を担う場所を広くとってきわめて安定させる構えであり、その場所の中央に重心が落ちるように腰を前にぐっと押し出して座らなければならない。すなわち、座の姿勢の基部であるところの両膝と臀部との三点をつなぐ三角形の中心に垂直線が落ちるように座り、膝頭と臀部とを底辺とし、頭を頂点とする二等辺三角形を作って、からだの重心を座面の中央に至らしめるのである。このように腰を前方に押し出す毅然たる座り方においては、上半身の重みは脚全体に加えられ、かつ、それがために脚部の動脈が圧迫されることもなく、足がしびれることもないのである。
注意すべき点は、上半身を前に傾けるのではないということだ。上半身は垂直に立ったまま、腰のみをぐっと前方に押し出し、臀部を後方に突き出すようにする。このように座れば、脚は全的に重用されるから、自らを空しくして体重の重さを担うので、それ自身は軽々となっている。脚を折り重ねると言うのは、身体をよく安定させて担うために活用するのであって、日本式座位においては、脚が必然的な役目を持っているのである。
この日本式座位の成立は、古くはハタ・ヨーガの座法であるヴァジュラ・アーサナ(金剛座)の中にその起源を見いだすことができるが、我が国においては武士道の発達と密接な関係があり、剣豪 宮本武蔵もこの座法を心得ていたという。折り目正しき脚の重ね方、即座にいかなる動にも転じる隙のない構え、これはどうしても武士の座法としか思えない。
また静と美の茶道や華道でもこの日本式座位を作法としているのは、姿勢がよく、特にこの姿勢で着物を着た女性は物静かで美しく魅力的であるからだ。御見合いの場合など着物を着た時は、意識してこの姿勢をとっていただきたい、50%は美アップすることを請け負う。これに比較すれば、座禅の結跏趺坐や半跏趺坐は 「動」 と 「反動」 との解消に境地は得ているが、常に新たなる動を生む構えをもっていない。結跏趺坐や半跏趺坐の姿勢は往相の一面に偏して、物体としての体躯を常にいま動に転じようとする還相においても欠けるところがある。
日本式座位は筋肉の働きの上から見ても、人間の姿勢の基本形と看做されるべきである。本来、筋肉の働きというのは、ただ縮むだけの能力に止まっており、一つの関節について二つの筋肉が互いに反対の位置を占め、交互に縮むために、関節の屈伸が行われる。そして下肢については、関節を伸ばす方の筋肉は、関節を屈する方の筋肉よりも常に強い。座るときは、その強い方の筋肉は縮むことなく、むしろ強く引き伸ばされている。だから直立の姿勢においては、下肢を伸ばしたままに持ちこたえているのであるから、ほとんどすべての筋肉が縮みきりになっている。ゆえに直立の姿勢は疲労を感ずることが甚だしいのである。
それに反して、座るときには、伸筋の適当な弛み加減で関節が自ずと屈曲するのであるから、別に屈筋の収縮を要しない上に、座っている間たえず上体の体重が脚部にかかっているので、漬物の重石が利くように、鬱血を起こさないのである。欧米式生活習慣を取り入れた人たちは、座ることが血行を阻害すると言っているが、それは認識の錯誤であって、正しい座位はかえって血行を促すものである。日本式座位の効果としては、足首、膝関節、足の甲、脚の筋肉を柔軟にし、下肢の静脈瘤と脚の疲労に効き、また精神的には気もちを落ち着かせる効能があり、これが快感覚につながっていくことになる。
日本式座位は論理的に見て、人間の姿勢の完成である。人間の本然の相がまさしく日本人の座相に示されているのである。論理的に真なるものは必ず 「美」 であり、 「健」 であり、 「快」 であり、人間の原本的体験である。このように正しく身を持つことのみによって正しく呼吸することができるようになり、これは契機たる物体、すなわち肉体を直接に生かすことになる。ひいては快適な感覚として具現することが可能となるのである。


2012年秋季東京操体フォーラムは11月18日(日)津田ホールにて開催決定