私は当初、臨床の世界で生きていくとばかりに思っていた。
しかし、橋本先生の哲学を学んでいくうちに、何かそれは違うなと思いはじめる。私が30代の半ば、仙台の先生から電話がかかってきた。
佐助*、患者ばかり診ていると「脳ミソが腐ってしまうぞ」と灸を据えられる。ハイ、わかりましたと答えてみたものの、脳ミソが腐るとは、どういうことなのか、わかっていない。
東京で開業しろ、と言われた。やっとつかんだ臨床の充実感であったが、そう言われてしまえば、日々疲れきって自宅には食事をとり、風呂に入って眠るだけの毎日が何年もつづいていたから、脳ミソが腐っても当然だなと。
先生の言われたことは正解だった。
当時の予約帳をみれば、連日、何ヶ月も先の予約つづきであった。このまま続けていれば、脳ミソが腐って若死にするんだなと思った。一人で患者を診るには限度を超えていた。
*佐助 橋本敬三先生が私につけたあだ名